所得税基本通達37-25及び37-26に、業務遂行上支出した民事事件と刑事事件の弁護士費用などを必要経費に算入できるかどうかが定められています。弁護士費用の取扱いは、税理士試験にも出題されています。令和3(2021)年度の所得税法の計算問題では、損益計算書上の費用に、「滞納家賃の回収のために要した弁護士報酬30万円が含まれている」と記述されています。弁護士費用の必要経費算入の重要性が、法律相談でよく質問を受けるのが、「民事事件の弁護士費用を相手方に負担させることができるかどうか?」です。本節では、「民事事件の弁護士費用を相手方に請求できるかどうか?」(民法、民事訴訟法)について解説します。1 弁護士費用の請求方法民事事件の弁護士費用を相手方に請求する方法として、訴訟費用として請求するのと、損害として請求することが考えられます。2 訴訟費用として請求民事訴訟法では、訴訟費用は原則として敗訴者が負担します(民訴61条)。この「訴訟費用」に、被告の負担とする」と記載されます。この確定文言で、相手方に請求できるかと思われますが、この訴訟費用とは、訴え提起にあたって裁判所に支払った印紙代や郵便料のことであり、弁護士費用は訴訟費用とは見なされていません。したがって、訴訟費用に該当することを理由として、敗訴した相手方に弁護士費用を請求することはできません。3 損害として請求訴訟は、相手方が本来は行うことも認められているので、弁護士に委任しなければならず訴訟活動をすることと因果関係を有する請求権に基づく弁護士費用を損害として相手方に請求することができます(判例)。一般的には、不法行為(例.交通事故)による損害賠償請求の場合(民709条)は原則として請求できるのに対して、債務不履行(例.金銭債務の不履行)による損害賠償請求の場合(民416条)は請求できないとされています。ただし、弁護士費用を相手方に請求できるかどうかの判断は、信義則に照らされ、個別の事件に応じて判断されます。弁護士費用を相手方に請求するのに、信義則に照らして、信義則の履行請求権の確保に値しないこと、占有権を侵害した場合(被告が敗訴した場合)に、被告の弁護士費用を原告に負担させる制度はないので、上記の規定は、原告が勝訴した場合の弁護士費用の取扱いが問題になるとになります。もっとも、弁護士費用を請求できる場合であっても、事案の難易、請求額、認容額などを総合的にみて相当と認められる範囲のものに限られます。弁護士に支払う報酬の全額が当然として認められるわけではありません。実務上、認容額(請求額のうち裁判所が損害として認めた金額)の1割程度を目安に算定されることが多いです。COLUMN 弁護士費用に関する最近の判例最高裁令和3(2021)年1月22日判決・裁判所Webは、「契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とは異なり、侵害された権利利益の回復そのものではなく、契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである。また、契約を締結しようとする者は、債務の履行がされない場合があることを考慮して、契約の内容を検討したり、契約を締結するかどうかを決定したりすることができる(後者注1)。加えて、土地の売買契約において買主が負う土地の所有権移転登記手続をすべき債務は、契約から一義的に定まるものであって、土地の所有権の移転を求めるべき債務は、上記契約の締結という客観的事情によって基礎付けられるものである(後者注2)。そうすると、土地の売買契約の買主は、上記債務の履行を求めるための訴訟の提起・遂行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合は、そのために要した弁護士費用は、これらの事務との間に相当因果関係に基づく損害賠償として請求することはできないというべきである」と判示しています。注1)は、契約上の債務の履行請求の一環であるのに対し、注2)は土地売買契約による債務などから履行請求に関する固有の理由です。POINT 1弁護士に委任しなければならず訴訟活動をすることと因果関係に属する請求権に基づく履行は、弁護士費用を損害として相手方に請求することができる。一般的には、不法行為に基づく損害賠償請求の場合は、弁護士費用を損害として請求できるが、債務不履行に基づく損害賠償請求の場合は請求できない。医療過誤や労災事故などの専門的な知見の場合である。弁護士費用を相手方に請求できる場合であっても、事案の難易、請求額、認容額などを総合的にみて相当と認められる範囲のものに限られる。実務上、認容額の1割程度を目安に算定されることが多い。